近未来教育フォーラム

近未来教育フォーラム
-Raise Our Flag- デジタルハリウッドの軌跡と
未来に向けた取り組み

2021年3月12日。世界的パンデミックのさなか、オンラインによる「近未来教育フォーラム -Raise Our Flag-」が開催された。今年のテーマは「Raise Our Flag」。デジタルハリウッドの本質に立ち戻り、改めて旗を立てる。「デジタルの力」「教育の力」「創発する場の力」を用いて、人が人らしくあたらしく生きるすべを見つけ、一人ひとりに伝えていく。

デジタルハリウッドが27年前に掲げた旗は「Re-Designing the Future」。近未来教育フォーラムの第一部は、デジタルハリウッドが取り組む5つの教育のリデザインコンセプトについて、デジタルハリウッドの社員がそれぞれ講演した。

第二部は「Re-Designing the Future」をテーマに、『WIRED』日本版の編集長である松島倫明氏を迎え、デジタルハリウッド大学の学長である杉山知之と対談した。

イベント取材・文 栃尾江美
  写真:Shoya Oyama

第一部 教育のリデザイン 5つのコンセプト

  1. 1.いつでも、どこでも快適に学べるようにつくる
  2. 2.現役・最前線で活躍する人とつくる
  3. 3.デジタルネイティブの価値観に沿ってつくる
  4. 4.学習者の“自分らしさ”を中心につくる
  5. 5.未来をつくる人が目覚めるようにつくる

第二部 Re-Designing the Future

  1. プレ・パンデミックは
    インターネットを使っていたとは言えない
  2. ミラーワールドと、
    100万人のコラボレーションの可能性

第一部 教育のリデザイン 5つのコンセプト

第一部では、デジタルハリウッドが提供する教育のリデザインコンセプトについて、
ひとつのコンセプトにつき一人の社員が担当し、それぞれを短いプレゼンテーションで紹介した。

1.いつでも、どこでも快適に学べるようにつくる

デジタルハリウッドとは「まっすぐな大人の方が学ぶ場」だと説明。そのまっすぐな思いを実現するべくスタッフは創意工夫をしている。

「デジハリ・オンラインスクール」は15年前からスタートし、通信教育だけでなく、授業の標準化に寄与し、対面の授業の中で活用することもできた。

昨年の春より、デジタルハリウッド大学にもオンライン授業を全面導入。苦労を重ねたのち、受講生が対面とオンラインを選べるハイフレックス式をすべての授業で導入している。

2.現役・最前線で活躍する人とつくる

創業以来、クリエイティビティを大切にしてきたデジタルハリウッドでは、それを伝えていく講師も現役クリエイターであることが重要だ。

例えば、近年教鞭をとっている実務家教員には、ファッションテクノロジーを融合した新しいデザインの形を提案するファッションデザイナーOlga(オルガ)氏や、全世界で9人しかいないMicrosoft MVPでフリーランスエンジニアの山崎大助氏などがいる。

さらには、デジタルハリウッドの卒業生が、最前線の活躍を見せながら在学生に寄り添うという好循環を作っている。

3.デジタルネイティブの価値観に沿ってつくる

デジタルハリウッド大学は、2005年に4年制大学を開講した。18歳からのデジタルネイティブを対象にするにあたり、それまでの専門技術に加えて、人間的成長を促す必要があった。そのためには「可能性を模索できること」「トライ&エラーできること」「教養を養うこと」「本物に出会えること」を必要な要素と考えた。

さらには、留学生やLGBTQ、障害のある学生などが混在する多種多様な人に対して教育をする必要があったため、「異なる価値観やバックグラウンドを受け入れること」「混ざりあうこと」を重要視している。

運営側も、柔軟かつしなやかで、「混沌の中から新たなものが生まれる」と信じて取り組んでいると締めくくった。

4.学習者の“自分らしさ”を中心につくる

主婦やママ、学生、シニアなど多様な学生がおり、さらには就職や転職、フリーランス、副業といった多様な目的がある中で、それぞれが自分らしく学べるようにコースやクラスをアップデートし続けている。

さらに、先輩クリエイターとの交流を通して、なりたい自分がイメージできる環境も用意。「らしさ」と働き方の多様化が合致するよう、進路も数多く用意し、チャンスと学びをセットに運営している。

5.未来をつくる人が目覚めるようにつくる

デジタルハリウッドは、起業家が多く生まれており、学発ベンチャー数では日本で11位、私立大学内では3位を誇る。2015年に設立した起業家・エンジニア養成スクール「G’s ACADEMY」は、5年のうちに56社が起業し、総計で66億円の資金調達に成功している。

ポイントは、アウトプットを最重視した教育設計と、セレンディピティを起こすメンターにあるといい、アウトプット先とメンター選びを大切にしていると述べた。G’s ACADEMYで生まれたプロダクトには500万円までの投資ができる仕組みがあり、スタートアップを支援する制度が整っている。

Entertainment. It’s everything.
(すべてをエンタテインメントにせよ!)

第一部の最後に、5つのコンセプトのまとめとして、「Entertainment. It’s everything.」という言葉を紹介した。

このポリシーに沿った最大のイベントが、DIGITAL FRONTIER GRAND PRIX(デジタルハリウッド合同入学式)だ。一部がデジタルハリウッド大学と大学院の入学式、二部が前年度のクリエイティブ作品を表彰するイベントとなっている。新入生に入学当初からゴールを見せるねらいとともに、デジタルハリウッド全体の広がりと、価値の連鎖を表現する意図がある。

第二部 Re-Designing the Future

コンセプトを紹介した第一部から休憩を挟み、第二部は、ゲストに『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏を迎え、
「Re-Designing the Future」をテーマにデジタルハリウッド大学 学長 杉山知之とのトークセッションを開催した。

プレ・パンデミックはインターネットを使っていたとは言えない

第一部のプレゼンテーションを振り返った松島氏は、「デジタルクリエイティブを日本でけん引しているスクールながら、5つのうち4つは人に関することだったのが印象的だ」と感想を述べた。

杉山氏は、1990年の初頭に「21世紀になったら誰がどう止めてもコンピューターとネットワークが地球上にあふれてしまい、使いこなせない人はいなくなる」という予想を立てた。誰もが何かを始めるときに、Webデザインをはじめとするデジタルのスキルを基礎として知っていれば、新しいことを始められるようになると直感したのだという。

松島氏は、「人」の大切さを次のように語る。「『WIRED』日本版の創刊時に『闘う楽観主義』という言葉を掲げている。これはただやみくもに明るい未来を信じるのとは違います。デジタルスキルがあって自分で手を動かせる人こそが、社会を変えて未来をよくしていくリテラシーをもっている。そういう人たちが生まれることに楽観的でいられるということです」と述べた。

杉山氏は大いに共感し、表面的に特別な技能を持つ職人を作っているわけではない、と説明した。「自分がツールを使えるからこそ実感、実体験として理解でき、自分の人生ややりたいことを見つける力になると思う」と説明すると、その言葉を松島氏は『WIRED』日本版の特集にもなった「未来のリテラシー」と表現。杉山氏は、デジタルハリウッドで教えているのは技能ではなくリテラシーなのだとした。

2020年からのパンデミックによって、インターネットが新たな領域を迎えたと考える松島氏は「未来から見ると『プレ・パンデミックの時代にはインターネットをほとんど使っていなかった』と言われるんじゃないか」と言う。90年代に世界を興奮させたインターネットのインパクトが、技術だけでなくようやく社会に実装されてきたという意味で、2021年が最初の年になるかもしれないと説明した。

ミラーワールドと、100万人のコラボレーションの可能性

技術の進歩の話題は、『WIRED』日本版で2019年に特集したミラーワールドの話に移る。ミラーワールドとは、現実の世界がすべて1対1でデジタルデータの世界に存在する世界のこと。杉山氏は、ミラーワールドには欠かせない自分の分身「アバター」に注目しているという。「2021年度は、学生全員が自分のアバターを1年かけて作る。うちの大学らしいと思っている」と述べた。

「テクノロジーの話はいくらでもできるが、結局作るのは『人』。人のアイデンティティや、社会と人の関係性は、アバターに象徴されると思う」と松島氏。さらに、「リアルな世界では、いまだ人種差別もジェンダーギャップも克服できていないが、デジタルの世界ではダイバーシティが広がるはず。それはひとつのシンギュラリティと言えるだろう」と予想した。

デジタルハリウッドでは、今年から男性の教授が美少女のアバターでオンライン授業をスタートする。「気負わずに実施することで、18歳で入学してくる学生たちにも『人間ってもっと自由でいいんじゃないか』と感じてほしい」と言う。

一人ひとりが自由にやりたいことを追求できる社会がやってくれば、一緒に作れる場こそが重要になる。杉山氏は「パンデミックによってすべてオンライン授業にする必要性が高まったからこそ、物理的に教室やライブラリーを持っている意味が確認できたと思っています。受動的に学ぶならオンラインでもいいが、その後に質の高いアウトプットをするには人とのやり取りが必要になる。その部分は、なかなかオンラインだけではできない」と気づきを得たという。

松島氏は「WIREDの創刊編集長であるケヴィン・ケリーは、インターネットの一番のポテンシャルは、100万人がひとつのプロジェクトに関わってコラボレーションできることだ、と言っている」と紹介した。さらにケヴィン・ケリーは、そうしたコラボレーションの見本となるのはハリウッド型だと考えている。杉山氏が大学と学校に「デジタルハリウッド」と名付けたのも、プロジェクトごとに離合集散しているものを考えたときにハリウッドが浮かんだから。以前より、インターネットに対して同じ可能性が見えていたという象徴と言えるだろう。

近未来に向けて取り組むべき教育としても、過去に掲げたコンセプトと本質は変わらない。いまある状況の中から、先を見据えてできることを重ねていくことが重要だ。松島氏は「ケヴィン・ケリーの言葉によると、これからは可能性しかないから、今社会に出た人は一番ラッキーだ」と締めくくった。

Past holding contents

過去の開催内容

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  • 2018

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  • 2012

    ~デジタルコミュニケーションで加速する
    オープンエデュケーションによる教育革命~

    基調講演/宋文州氏ほか「デジタルコミュニケーション時代の人材育成」

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  • 2011

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  • 2010

    Exploring New Education in Digital

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