デジタルハリウッドの教育実践と研究成果を紹介する場として、2010年より毎年開催している近未来教育フォーラム。2022年11月24日、デジタルハリウッド大学・駿河台キャンパスにて本イベントの第12回が開催されました。
今年は3年ぶりにリアル会場で開催。YouTube LiveとZoomを通じた生配信も同時に行い、全国各地の教育機関、自治体、企業の皆様を中心に500名以上の方にご予約いただきました。
この記事では、当日の講演や分科会の内容をまとめてご紹介。ぜひ読者の皆様とも一緒に近未来を見据え、これからの教育のあり方を考えていくことができれば幸いです。
今デジタルハリウッドが一番関心を持っていることを、その年のテーマに掲げている近未来教育フォーラム。今年度のテーマは「Being Avatar」です。
「仮想空間の利用に際して、皆がアバターを持つことは、人類の変容を全世界的に引き起こすことになるだろう。」このような未来予想は、本学の杉山知之学長が30年前から見据えていたことでした。そして現在、コロナ禍を機にメタバース(=アバターを用いて生活する仮想世界)が広く浸透し始め、アバターと人間との関係性はますます深くなっています。
外見だけでなく、声や動作までも丸ごと変えられるアバターを一人ひとりが持つということは、人類にとってどのような変化をもたらすのでしょうか?
アバター文化から生まれる創造的なデジタルライフの意味や価値について、講演と分科会を通じて改めて問い直していきました。
駿河台ホールにて開催された基調講演では、ビジネス・テックメディア「Mogura VR News」の編集長・すんくぼ(久保田 瞬)氏に登壇いただきました。
まず参加者の注目を集めたのは、モニターに映る愛らしいモグラのアバター。久保田氏はアバター文化の現在地を示すべく、あえてご自身のアバターを使って遠隔から登壇されたのです。
VR/ARの発展やメタバースの深化によって、バーチャルと現実社会との融合が進んでいます。2017年にVTuberが登場し、2021年にその数は1万6千人を突破。コロナ禍とともにメタバースという言葉も注目を集め、アバターがいっそう浸透していきました。それはすでに個人の価値観を変え始め、ある一定のポイントに達した時に社会全体が変わるのではと考えられています。
そして、アバター文化の現在地として以下3つのポイントが提示されました。
その他、初心者向けにアバターの作り方も教えていただきました。この講演を通じてアバターを身近に感じ、「自分も作ってみよう」と感じられた参加者も少なくなかったのではないでしょうか。
▼登壇者プロフィール
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省入省。2015年にVRやAR、メタバースの専門メディア」Mogura VRを立ち上げ、株式会社Moguraを創業。この分野が社会を変えていく無限の可能性に魅了され、それを広げる事業を展開している。XR/メタバースの動向分析、コンサルティングが専門。現在は子育てをしながら事業推進に、講演にと奮闘中。一般社団法人XRコンソーシアム事務局長、一般社団法人VRMコンソーシアム理事。著書「メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤」、日経BP(2022)。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性はビジネスの現場だけでなく、教育現場においても年々高まっています。この講演では、教育にデジタル活用を促進する「教育DX」の分野で活躍する有識者3名の方をお招きし、以下3点のテーマについて議論いただきました。
教育のあるべき姿としてあげられた点は、「誰もが高品質な教育が受けられること」、それから「一人ひとりが能力を伸ばせる個別最適化学習を進めること」。その上で、アナログ中心の社会で設計された制度によって教育現場の変革が妨げられているという課題が指摘されました。
今後のアクションとしては「既存の制度を見直してデジタル中心にアップデートすること」、「データを活用して課題がある子どもの可視化と支援を行うこと」などが提案されました。
教育DXは、授業にパソコンを導入すればよいというものでは決してありません。日本の教育における複雑な課題に対峙し、既成概念を変えていくことの難しさと必要性にあらためて気づかされる機会となりました。
▼登壇者プロフィール
1992年日本電信電話株式会社(NTT)入社。2002年デジタルハリウッド株式会社執行役員に就任。2004年株式会社グローナビを立ち上げ代表取締役に就任。2009年同大学院事務局長や産学官連携センター長を経て、2017年一般社団法人教育イノベーション協議会を設立、代表理事に就任。現在は専任教授として学生指導を行う。内閣官房教育再生実行会議技術革新ワーキンググループ委員、経産省未来の教室とEdTech研究会座長代理など教育改革に関する国の委員や数多くの起業家のアドバイザーなどを務める。著書『EdTechが変える教育の未来』(インプレス)。
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日本銀行、世界銀行等を経て、コロンビア大学にてMPA、Ph.D.取得後現職。専門は教育経済学。規制改革推進会議、産業構造審議会等で有識者委員を務める。著書はビジネス書大賞2016準大賞を受賞した「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、週刊ダイヤモンド2017年ベスト経済学書第1位の『原因と結果』の経済学」 (共著、ダイヤモンド社)など。
県立高等学校国語科・情報科教員20年、奈良県教育委員会の指導主事、主幹等13年を経て、2021年4月から現職。文部科学省教育データの利活用に関する有識者会議、GIGAスクール構想下での校務の情報化の在り方についての専門家会議委員等。著作物の教育利用に関する関係者フォーラム初等中等教育専門WG委員。専門は、教育DX、AI、教員養成、語源、万葉集、中世軍記物語。
これからの入試のあり方について、ゲストの山内太地氏(学校経営コンサルタント/教育YouTuber)、仲井美夏氏(スタディサプリ進路 編集長)、デジタルハリウッド大学の在学生とともに考えていく講演が行われました。
この時間は、2025年度のデジタルハリウッド大学の入試変革プロジェクト「#DHUEEX2025」の経過報告も兼ねた内容となっています。
「#DHUEEX2025」は、「入試すら、自分で作ってしまおう。」というタグラインのもと、高校生・受験生から入試のアイディアを募集するプロジェクトです。このセッションの中で、応募総数62件の中から審査員によって選ばれた優秀賞と最優秀賞の作品が発表されました。
最優秀賞に選ばれたのは、梁本真優さんの「なぜ、デジタルハリウッド大学のマスコットキャラクターには友達がいないのか。じゃあ、創ろう。」というユニークなアイディアです。グループでPDCAを回して進めていく点や、入試の意図を受験生自身に考えさせる設計が、審査員から高い評価を集めました。
その他、以下のようなテーマでディスカッションが行われました。
在学生による等身大のコメントを交えながら、専門家の皆様とともに若者の視点や入試の未来について考えていくこのセッション。子育てに関わる皆様や、教育関係の皆様には特に参考になる内容になったのではないでしょうか。
岐阜県出身。理想の大学教育を求め、日本全国約800大学をすべて訪問。海外は14か国3地域約100大学を取材し、全国の高校で年間約150回の進路講演を実施。大学・高校の経営コンサルティング業も行う。編集者としては20万部のベストセラーを出し、最も売れた著書は7万2千部。YouTubeは1000万再生、Twitterはフォロワー2万1千人と、様々なメディアを使いこなす。
Twitter:@yamauchitaiji
愛知県出身。2013年リクルート入社、他事業を経て4年目にスタディサプリへ。異動後、「いつも高校生の味方となり伴走し続ける」をコンセプトに進学マガジンをリニュアル。高校生エディター組織を立ち上げる等、ファン醸成をキーにメディアを通したコミュニケーションの在り方を再編。現在は、3000名以上の高校生エディターと協働し、進学マガジン・アプリ・メール等やブランディングに携わる。
2018年結成。オープンキャンパスをはじめとするデジタルハリウッド大学(DHU)の広報活動の企画・運営に携わることを通じて、「高校生・受験生への適切な情報発信を行う」「大学のことをよく知り、学生生活を充実させる」「社会人スキルを身につけ、学外インターンや就職活動へつなげる」ことを目的に活動している。2022年10月現在、5.5期生4名が活動中!
Instagram:@dhucprp
この分科会は、デジタルハリウッド大学大学院のAKI INOMATA特任准教授によるアーティストインレジデンスについての中間報告です。
SEAD(Science/Engineering/Art/Design)という概念のもと設計されているデジタルハリウッド大学大学院のカリキュラム。この中でも特にArt(アート・芸術)は学ぶことが難しく、実際に「つくる」「できる」ことを体感することが重要であると木原教授は言います。
そこで2021年後期に開始したプロジェクトが、アーティストインレジデンス(学生がアート作品をつくる現場を体感できる滞在型制作活動)です。ただしコロナ禍の活動となるため物理的なキャンパスには固執せず実施しました。
この活動を通じて生まれたものが以下の作品です。
タイトルは「Thinking of the Yesterday’s Sky 昨日の空を思い出す」。二度と同じ空は訪れないというコンセプトのもと、空模様をカップの中に再現する技術を開発して表現されています。
3Dプリンターを用いて、液体を雲の形状に再現することは前代未聞の挑戦であったとのこと。試行錯誤しながらブラッシュアップされている様子について詳しくご報告いただきました。
2008年、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。東京都在住。2017年、アジアン・カルチュアル・カウンシルのグランティとして渡米。生きものとの関わりから生まれるもの、あるいはその関係性を提示している。 ナント美術館(ナント)、十和田市現代美術館(青森)、北九州市立美術館(福岡)での個展のほか、2018年「タイビエンナーレ」(クラビ)、2019年「第22回ミラノ・トリエンナーレ」トリエンナーレデザイン美術館(ミラノ)、2021年「Broken Nature」MoMA(ニューヨーク)など国内外で展示。
三菱商事、ヤマト運輸、東急建設などのDXを推進する大手企業が、社内に導入している人材育成プログラムがあります。それは「世界を変えるGEEKをになろう」をタグラインに展開しているデジタルハリウッドの事業・G’s ACADEMYです。
この分科会ではG’s ACADEMYをゼロから立ち上げた児玉浩康氏が、社内のデジタル変革を検討・進行している方に向けて、DXの基礎や推進のためのポイントを解説していきました。
45.4億人がインターネットユーザーとなった現代。テクノロジーを活用して世界全体の生産性が向上している中、日本に限れば右肩下がりであることをご存知でしょうか。
単にデジタルスキルを暗記しても生産性は上がりません。そうではなく「X」=「トランスフォーメーション」、つまり業界の構造や既存の価値観を転換することができなければ、日本の未来はないでしょう。
以上の3点が、DXを実現するためのポイントです。自立分散社会という理想に向けて、全ての業界でDXを実現することが何より重要であることを理解する時間となりました。
25年間で10ブランドの新学校設立をプロデュース。デジタルハリウッドスクール統括の後、2015年G’s ACADEMY を設立。卒業生専用スタートアップ支援機関『D ROCKETS』も創立し、創業指導・支援を全面的にハンズオンサポート。
デジタルハリウッド大学の「VR/ARゼミ」では、メタバースとアバターを活用したゼミの実践を3年間行っています。この分科会では、当ゼミを担当されている茂出木謙太郎先生の実践経験をもとに、以下の3つの学びを共有いただきました。
実践経験から見えてきた学生とアバターの関係、メタバース大学のUXと、真に利用価値のあるメタバース大学のあり方について、いくつかの実例を交えてお話いただきました。
その中には、茂出木先生が実際に使用したアバターを比較し「先生の見た目が好ましいと生徒の積極参加行動に影響を与えた」という事例や、「人間関係に消極的であった生徒がアバターで卒業制作展に参加した」という事例など、印象的なエピソードが多くありました。
メタバースやアバターを活用したオンライン授業を組み合わせることで、学習効果だけでなく、学生の生活状態を観察し、デザインで生徒のやる気を高めていくことができる近未来の授業のあり方を垣間見る貴重な機会となりました。
トミー(現タカラトミー)、Web制作会社などを経て、2007年に株式会社キッズプレートを設立し、VRコンテンツ制作に注力。アベマTV「 にじさんじのくじじゅうじ」、文化庁・文化財多言語解説整備事業(VR発願体験)等のコンテンツ制作を行う。アバター会議参加システム「NICE CAMERA」を開発。全員アバターによる授業や遠隔での授業を行い、メタバースを活用した次世代の生き方について検証と実践をしている。
「デジタル競争力ランキング2022」において、日本は63カ国中29位と過去最低となりました。デジタル分野で活躍する人材が圧倒的に不足する中、予期せぬ変化(VUCA)に対応できるデジタル人材を育成することは企業のみならず地方自治体においても急務です。
そこでデジタルハリウッドでは、地方でのデジタル人材育成パッケージを開発。オンライン講座を通じて即戦力として活躍できる技術を持った人材を育成し、企業への就職とフリーランスとしての活躍につなげることを目的に展開中です。
効果的な人材育成のポイントとして、以下の三点が提示されました。
そして岩手県大船渡市「スマートキャリアカレッジ構想」、静岡県浜松市「IT人材育成・就業支援事業」、岡本県高梁市「Webデザイナー講座」など、地方での実例をご紹介。各自治体や教育現場に合わせてカスタマイズが可能とのこと、ご興味をお持ちの方はぜひ一度デジタルハリウッドまでご相談いただければと思います。
デジタルハリウッドにて主に大学・専門学校・高校・民間教育事業者・自治体の課題解決のためのソリューション提案を行う。2021年度から岡山県高梁市、高知県などの自治体案件でプロジェクトリーダーを務める。
一般的に、修了率が5%〜50%と言われるオンライン授業。動画教材を使用するだけでは、学生に対する「学習強制力」がないことが主な理由です。
オンライン授業であっても、動画教材と授業運営方法の工夫によって学生の能動学修を促すことができるのではないか?という観点からアプローチを行っているのが、デジタルハリウッド大学大学院「デジタル表現基礎」を担当する石川大樹専任助教。この分科会では、その研究成果についてお話いただきました。
「デジタル表現基礎」は、Web/CG/プログラミングなど多岐にわたる動画教材を活用し、eラーニングの能動的学習方法を身につける授業です。ZoomやGoogleClassroomなどのツールを活用し、対面授業(講義・ディスカッション)と自宅学習を組み合わせながら学んでいきます。
動画の自主学習を促すメソッドとして、以下3点が提示されました。
こうした取り組みの結果、当授業での修了率は86%〜89%を記録。学生が選び自主学習するスタイルと、能動学修を促す仕掛けによって、高い修了率を実現できることを示しています。
大学卒業後、大手キー局にて報道番組を中心に編集・動画配信・ディレクションを担当。 2004年デジタルハリウッド入社以来、数多くの新規事業に携わる。 番組制作と新規事業経験を活かし、現在は映像教材や教育メディアを開発。 そして、デジタルハリウッド大学大学院の実務家教員として映像教材の教育効果を研究、その成果やインストラクショナルデザインの観点からの教職員向けのオンライン・動画活用研修を手掛ける。
開学初期から、第3の働き方としてフリーランスカルチャー創造への挑戦を続けるデジタルハリウッド。現在は卒業生のクリエイティブ人材と企業の間の新たな関係性を提言する事業「ランサーユニット」を展開しており、責任者の齊藤知也氏からその詳細についてお話いただきました。
2030年には日本のITセクターの人材不足者が60万人になると言われています。一方フリーランス人口は増加しており、副業を含むと約1,600万人(2021年)。この多様性に富む人材とどのように関係を構築するかが企業にとって非常に重要となる時代です。
ただし単に請負の関係性では、お金と質の格差でトラブルになりやすいことも事実。そこでランサーユニットでは、企業がフリーランスにいつでも相談できる継続的なパートナーシップを提案しています。
人事戦略の一環としてフリーランスのクリエイティブチームを組織化することの価値をお伝えしながら、企業とデジタルハリウッド卒業生のクリエイティブ人材が平等にパートナーとして課題を解決していく土壌づくりに貢献していきます。
大学卒業後イオン株式会社入社、新規事業部門を経て、グラフィックデザイナーに転身、その後、デジタルハリウッド株式会社に入社し、専門学校提携事業、法人研修事業、日本初の株式会社立大学大学院、デジタルハリウッド大学院大学設立、スクール事業部を経て、クリエイティブ人材のマッチング事業、xWORKS事業を立ち上げ、現在、複数のフリーランスのクリエイティブ人材をユニットにして企業提供にするサービス「ランサーユニット」を展開している。
全3回の講演、全6回の分科会を通じて、多様な切り口から社会のあるべき姿を見つめた近未来教育フォーラム2022。リアル会場とライブ配信のハイブリッド形式でお送りした今回は、コロナ禍で改善を重ねたオンライン配信の手法に加えてキャンパス内で実際にアバターと対話を体験できる機会もあり、より近未来を肌で体感できる場となったのではないでしょうか。来年度も新しいテーマで皆様と再会できることを楽しみにしております。