宮田裕章 飛騨高山大学(仮称)学長候補 / 杉山知之 デジタルハリウッド大学 学長

飛騨高山大学(仮称)
学長候補の宮田裕章氏と考える

デジタルと未来のあり方

去る2022年3月11日、
デジタルハリウッド大学主催でオンライン開催された「近未来教育フォーラム」。
本イベントはこれまで、教育やデジタルの最先端を行くゲストを招き、講演や対談を実施してきた。

今回は、「BECOMING」というテーマのもと、
慶應義塾大学医学部教授であり、飛騨高山大学(仮称)学長候補でもある宮田裕章氏による講演。
さらに、デジタルハリウッド大学の学長である杉山知之との対談や質疑応答をお送りした。

イベント取材・文 栃尾江美

Well-beingと
サステナビリティを掛け合わせた
Better Co being の時代に

「近未来教育フォーラム-BECOMING-」の司会は、3Dキャラクターの日向ナナ氏。オープニングムービーや、デジタルハリウッド大学の池谷和浩氏による大学の紹介などを経て、いよいよ宮田裕章氏が登壇した。

飛騨高山大学(仮称)学長候補の宮田裕章氏

デジタルによる可視化で、
世界は新しい資本主義へと向かう

講演のスタートは、今私たちが直面している大きな転換点について。「第4次産業革命」「情報革命」などと呼ばれ、インターネットが出現した後だけを見ても「Web3」と表すなど、さまざまな見方がある。いずれにしても、大きな転換点であることは間違いない。

「今後10年で、社会の構造そのものが変化するでしょう。これまでは、ビジネスでは短期的利益を追求すればよかったが、デジタルによってさまざまなものが可視化され、未来への責任を果たさなくてはならなくなりました。コロナの影響もあり、そのことを世界が自覚したといえます」

コロナでも格差が明らかになり、アフリカンアメリカンとその他の人種で死亡率が2倍以上開いたという。治療までの期間や感染リスクのある生活など、細かなものが積もり積もって数字として表れた。

「きれいごとだけでなく、『今までよりも世界の未来は持続可能で公平であるべきだ』と世界中が考えるようになっています。『新しい資本主義』『ステークホルダー資本主義』『The Great Reset』など、さまざまな言葉があてはめられていますが、『経済合理性以外の軸で世界を回していこう』という流れ。デジタルとデータの力で、命や環境、教育といった大切な軸が可視化された結果です」

Rioting after protest leads to curfews for Seattle, Portland

デジタルトランスフォーメーションによる
さまざまなイノベーション

デジタルトランスフォーメーションが社会に起こしているイノベーションは、私たちに大きな影響を与えている。宮田氏が紹介したのは、保険やファイナンスの分野でデータを活用し、爆発的な成長を遂げた中国企業の事例だ。

さらに、クリエイターの在り方にも変化があったと言及。例えば映画なら、以前は限られたエリア内の顧客で映画館をいっぱいにしなければビジネスとして成り立たなかった。ところが現在は、全世界で一定数のニーズがあれば成り立つ。そのために、マイノリティをテーマとしたり、映像の美しさを重視したりと、多様な作品が作れるようになった。

「医療分野でも、『人類に効くものは何か?』と大きく問うていた時代から、個人に寄り添うように変わっています。患者の特徴と地域の実情を踏まえれば、推奨される治療やアプローチを『個別に』算出できる。これらは、大量生産・大量消費からの脱却であり、『最大多数の最大幸福から、最大“多様”の最大幸福へ』と言えるのです」

また、宮田氏が当時行政改革大臣だった河野太郎氏とともにスタートした「子どもデータベース」は、支援すべき子どもをいち早く見つける施策。子どもの成長が標準値から外れてきた場合、危機的になる前に発見し、手を差し伸べられる可能性がある。

デジタルトランスフォーメーションの本質は体験価値。最大多数の最大幸福を実現するモノの提供。

データは誰のもの?
所有からシェアする時代へ

データを使ってできることは数多くあるが、「どう使うか」が世界中で物議をかもしているという。「企業のもの」と考えるアメリカ型と、「国のもの」と考える中国。どちらにも課題がある。

「新しい考え方は、『データにアクセスする権利』。石油や石炭のように誰かが所有したら他の人は使えないというわけでなく、共有できるという考えです。一人の患者さんのデータより、1万人のデータのほうがよりよいデータであり、全体としての価値も上がる。コロナのワクチン開発では、データの共有が早期の開発に寄与したと言われています」

テック・ジャイアント各社も動き始めており、GoogleやMicrosoft、Meta(旧Facebook)などが代表的だ。Appleは、2019年初頭からApplWatchなどのデータを活用したヘルスケアサービスに力を入れると発表している。

「これまでの医療は、病気になって病院へ行くところから。ところが、これからはスマートフォン、IoTのデータにより、もっと手前でのビジネスが可能になります。例えば、認知症の特効薬は今後20年登場しないだろうと言われています。一方で、認知症が進むと歩行速度が遅くなることがわかっており、秒速0.8mがひとつのポイント。それをもっと手前で発見できれば、長く健康に生きられる期間を延ばせる可能性があります」

これからは、デジタルやデータによって人々の「生きる」が変わり、未来とつながると宮田氏は言う。Well-beingとサステナビリティが重要度を増し、経済を重視した独りよがりの豊かさは通用しなくなっていく。

「Well-beingとサステナビリティを掛け合わせて『Better Co-being』と呼んでいます。このイベントの素晴らしいコピー『BECOMING』が表しているように、生きることが世界とつながっていく実感は、『生きる』の再発明だと思います」

Human being から Human Co-being の時代へ

大学の設立は、
成果が出るまでに時間がかかる

講演の後は、デジタルハリウッド大学の学長である杉山知之との対談や、会場からの質問に対応。さまざまな話題が交差していった。

杉山氏が講演について「非常に大きな視点に感銘を受けた」と感想を述べたあと、宮田氏は飛騨高山大学について言及。新しい大学を準備する過程で「もがいている」と表現し、杉山氏が先進的なデジタルハリウッド大学を立ち上げた、教育にまい進してきたことに敬意を表した。

杉山氏は「リモートなら場所を選ばないが、飛騨高山大学では、飛騨高山をメインとして十数か所のサテライトを作ると聞いた」と話題を投げかけたところから、宮田氏は飛騨高山という地域が持つ意味について解説する。

「飛騨の人口は3万、高山が7万に対して、関係人口が600万人いる。それは、伝統文化によって人と地域を結ぶ力があるから。さらに、地域そのものに空白地があるため、キャンパスだけでなく、駅前の商業施設など、エリア全体を構想しています。飛騨の場合は、『自然と伝統文化』という資源を活かしながら、持続可能な産業を目指しています。他のあらゆる地域で同様のやり方ができるはずです」

Co-Design(Co-Innovation Architecture Design)多様かつ多次元的な価値の共創社会:持続可能で、一人ひとりがその人らしく行きられる生活者起点の社会デザイン

さらに、杉山氏が「宮田氏が大きな視点を持つに至ったきっかけ」を質問すると、「高校生の頃に、いくつかのきっかけがあり哲学書を読んでいた」と答える宮田氏。そこから、自分の生活すらも世界とつながる形で捉えなくてはならないと考え、大きな枠組みを見据えながら実践も手掛けることにしたと言う。

さらに「Z世代やα世代は、生まれながらに世界がつながっているので、この感覚を持っている人が多い。これからの若者こそが、未来につながっていく可能性を持っている」と加えた。

質疑応答では、飛騨高山大学が地域とコラボしていく計画や、幼少期の子育てにおいて一人ひとりに寄り添えるデジタルの可能性、多様性を具現化するための宮田氏のファッションなど、さまざまな話題に答えていった。

対談中も終始、デジタルハリウッド大学の学長として先陣を切ってきた杉山氏に対する尊敬の念を言葉にする宮田氏。「初代学長は責任が重い上に、成果が出るのに7~8年かかる」という杉山氏の言葉が示唆する通り、飛騨高山大学は、卒業生がさまざまなエリアで活躍するまでを見据え、広い視野と長期的なスパンで教育と産業づくりに取り組んでいく。

総括を話す、デジタルハリウッド大学学長の杉山知之氏講演を終えてにこやかな宮田裕章氏