近未来フォーラム

MENU

Report

講演レポート

上木原 孝伸

03.EdTech 2

「未来の教室」を今、つくる
~N高校の挑戦と展望~

上木原 孝伸

学校法人角川ドワンゴ学園
N高等学校 副校長

未来の教育「N高」の実態と課題。ICTをあくまで手段として「夢中にさせる」教育へ

去る11月22日(木)、デジタルハリウッドで「近未来教育フォーラム2018 The ART into Future」が開催された。

未来の教育を考えるにあたり、新しい形で高校や中学の教育を実現している「N高」の実態と課題を紹介する。登壇するのは学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校の副校長である上木原孝伸氏だ。

N高でのプログラムはネットとリアルの両方で展開

N高でのプログラムはネットとリアルの両方で展開

現在、不登校の中学生は33人に1人と言われている(最新のデータでは、「不登校傾向」の中学生は10人に1人)。そういう現代の状況を鑑みて、「通信高校のしくみ」と「インターネット」を活用した未来の高校を創ろうとしたのがN高だ。

高校卒業に必要な授業が用意されており、いつでも好きな時間に受講できる仕組み。上木原氏は、テレビにも紹介された事例を動画で流した。

「この女子生徒は、普通の高校生が体験できないようなことをたくさんしています。人と会うのが好きで、1日3~4回は人と会い、コミュニケーションを取っている。移動や約束の合間にオンラインで授業を受け、小テストに合格すると次の動画を見られるようになります。ネット上の学校だからこそ、ネット以外の活動は自分で考えてむしろ積極的に動いています」

N高で用意されているものは「Basic Program」「Advanced Program」「コミュニケーション」という3つの観点で分類できる。それぞれ、ネットとリアルで課題や活動が用意されている。

Basic Programは、高校卒業資格に必要な授業で、映像学習や確認テスト、レポートなどが中心だが、年に一度5日間のスクーリングがマストとなっており、沖縄の本校や全国の会場で実施される。Advanced Programは、ドワンゴの提供するN予備校というアプリで大学受験や中学の復習、プログラミング、クリエイティブやエンタメに関するオンラインの授業のほか、リアルの体験として職業体験や国際体験プログラムなども実施。コミュニケーションには、Slackやネット上の部活や遠足のほか、リアルではドワンゴが一般向けに開催するビッグイベント「ニコニコ超会議」の会場における文化祭などが対象となっている。

新しい友達ができ、「N高なら通いたい」

新しい友達ができ、「N高なら通いたい」

「高校時代にスキルを身に付けるという観点から、PhotoshopやIllustratorなどのAdobe製品を生徒全員が無料で使えるようにしました。その発表をした時、生徒たちはslack上で発狂するほど喜んでいました。普段の授業だけでなく、リアルな職業体験や文化祭、ネット上のコミュニケーションなどにより、アンケートでは87.2%の生徒が『新しい友達ができた』と回答しています」

その結果、学校に通うことに違和感を持っていた生徒たちが「N高なら通いたい」と言い出したという。「せっかく通える学校を作るなら通わなくてはできないことを」という考えのもと、開校2年目に新たなカリキュラムの通学コースが設置された。

最低限必要な「Basic Program」を1時間実施するほか、午前中の2時間は恭佳を横断した「探求型(プロジェクト型)」の学習が用意された。その中で「障害者支援プロジェクト」を立ち上げた生徒は、「全国高校生マイプロジェクトアワード2017」の「ベストオーナーシップ賞」に選出された。さらに、Advanced Programとして、プログラミングや中国語などの課外授業を用意している。

モチベーションの維持や生徒間トラブルの課題も

モチベーションの維持や生徒間トラブルの課題も

輝かしい実績を収めているかのように見えるN高も、課題はまだまだある。自由に学習できる反面、「学習に対するモチベーションの維持」は重大な問題だ。生徒の情報はデータ抽出や分析を可能にするためSales Forceで管理されているが、担任の対応によってその後もモチベーションが異なることがわかった。例えば、レポートを始めた頃に教師から生徒へ電話をするなど、できたときに褒めると効果的だという。また、教師が手書きで作成したメッセージをメールで送るといった手法も試す。保護者向けに、zoomを活用したオンラインによる三者面談も用意している。

他には、「生徒同士のネット上のトラブル」も課題だ。オンライン上で誹謗中傷をしていた場合などは、通報できるシステムがある。教員とともにIT企業でカスタマーサポートやユーザー同士のトラブルを解決してきたスタッフが対応しており、プロのスキルが活かされている。

3つ目は「将来の進路を描けるか」。これまでの卒業生には、さまざまな大学に進学した実績があり、また、N高専用の求人サイトも用意している。ただし、卒業生全員の進路を決めるのは難しく、グランドデザインはこれから進めていく方針だ。

中学校も実現へ。未来の教育へ進む

中等部も実現へ。未来の教育へ進む

2019年には、中学校版であるN中等部が開校する。高校にある通信制が中学校には認められていないため、通学型としている。教育機会確保法に基づき、地域の中学校に在籍したまま、在籍校の校長の許可を得てN中東部の校舎に通う。

全国から多数の問い合わせがあり、東京300人と大阪で150人ずつの定員でスタートする予定。実践型授業を中心としたカリキュラムで、「ライフスキル学習」「プロジェクト学習」「国数英」「英会話」「プログラミング」「コーチング」が用意されている。

最後に、N高のコンセプトと未来の教育について上木原氏がまとめた。

「N高ではネットやICTを目的ではなく手段ととらえています。スタッフは、だいたい1/3がIT系、1/3が教育系、1/3が教育に興味のあった異業種の人たちから構成されています。その人たちが協力して、教育系の人たちがやりたいことにIT系や異業種からジョインしたスタッフが『こうすればできる』と教えてくれたり、また『この方がいい』と違う視点を教えてくれたりします。今後、教師の役割は、教えることから導くことに変わる。『聞き出す』『引き出す』『夢中にさせる』が大切なのです」

N高のチャレンジはまだまだ始まったばかりだが、現代の教育環境で、学校に違和感を感じている中高生の大きな希望となっていくだろう。