近未来フォーラム

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Report

講演レポート

白井 暁彦

01.The Real Time Live

The Real Time Live & Reception
リアルタイムグラフィックスの世界と
VTuberが牽引する新たな人類

白井 暁彦

グリー株式会社 GREE VR Studio Lab Director
デジタルハリウッド大学大学院客員教授

人間の新たな側面を浮き出させるVTuberとリアルタイムグラフィクス

2019年11月28日(木)にデジタルハリウッドで開催された「近未来教育フォーラム2019」。テーマは「In Real Time」。「マシンの計算が人間の認知に追いついてしまう世界とは」をリアルタイムで考えていく趣向となった。

駿河台ホールで大々的にスタートした講演は、GREE VR Studio Lab Directorであり、デジタルハリウッド大学大学院客員教授の白井暁彦氏によるもの。ヘッドマウントディスプレイと、リアルタイムグラフィックスのためのVR機材を装着して登場した。

リアルタイムグラフィックスの第一線で活躍する第一人者が登場

リアルタイムグラフィックスの第一線で活躍する第一人者が登場

白井氏は現在、グリー株式会社 GREE VR Studio Lab Directorとして、VRエンターテインメントを世界の産業の中で研究している。さらに、デジタルハリウッド大学大学院の客員教授でもある。

白井氏のオーガナイズによるライブイベントさながらの雰囲気でマイクを渡されたのは、リアルタイムグラフィックスのハッカー・FL1NE(フライン)氏。ロースペックのコンピュータや、非常に小さなサイズのソースコードという制限を設けてリアルタイムで動画や音楽を生成する「デモシーン」のイベント「Tokyo Demo Fest」を主催している。

2018年に開催されたTokyo Demo Festで優勝した我無氏がFL1NE氏により紹介された。優勝した「WORMHOLE」という2分強の作品を上映した後、その場でライブコーディングをしながら作品を再現していった。

途中までできているソースコードを少し変えるだけでヴィジュアルがみるみる変わっていく様子には驚くばかり。動画の中に出てくる物体は、パラメーター次第で球体や四角形、八角形に瞬時に変更できる。フラクタル構造のトンネルの中を、物体が通っていくような映像のモデリング部分は、GLSLのシェーダーを使って40行ほどのソースコードで実現できるという。

次に登場したのは「リアルタイム高校生 やはぎ」氏。文化祭に向けて制作しているのは、音楽に合わせてリアルタイムで踊る女の子の3Dグラフィックス。3Dモデルが踊るステージ上のスピーカーがビートに合わせて動いたり、曲が変わるタイミングでステージの色が変わったりする。会場ではそのプログラムのデモも流した。「なぜこんなことをしているかといえば、周りが誰もやっていないから」とやはぎ氏。

3人目は、イクスアール株式会社のCOO小池健輔氏だ。産業向けXRシステム開発スタートアップの代表でありながら、個人VTuber「猫田あゆむ」のプロデューサーでもある。今回紹介するのは、触覚バーチャルシミュレーター「イークイップス」。技術者の高度な作業などをVRで記録し、バーチャル空間上で再生する。それにより、高度な技術を体得するために何度でも練習できるのだ。さらに画期的なのは、振動を記録して触覚までも再現できること。ステージ上で実際のデモも行った。

バーチャルの世界で、オーストラリアから日本に矢を放つ

バーチャルの世界で、オーストラリアから日本に矢を放つ

白井氏は、12月にオーストラリアで開催された「SIGGRAPH ASIA 2019」で実演した「Real Time Live!」の一部を、今回のステージ上でも見せてくれた。

「僕はオーストラリアの会場で3,000人を前に演じていて、残りの3人は東京にいたままバーチャルの世界で共演しています。約7000km離れたスタジオですが、握手やハグをした触覚を感じます。一緒に歌って踊り、タイミングはほぼぴったり合っていました。セリフはヘッドマウントディスプレイにカンペを作りこんだので覚えなくてもいいのですが、踊りはごまかせないので事前に必死に練習しています。オーストラリアから東京にリアルタイムで矢を放つというシューティングゲームも大成功で会場は笑いと興奮に包まれていました」

そんな白井氏が教えているデジタルハリウッド大学大学院の講義「人工現実」では、学生にまずVR技術者認定試験を受けてもらうという。教科書通りの解説は1週間で終え、実際にVTuberとして制作をして、SNS上で活動してもらう。中国からの留学生が1週間の課題で作ったキャラクターが有名になり、文字通りリアルタイムで「人工現実」となった事例なども紹介した。

パネルトークと対談で、未来の世界の形を予想する

パネルトークと対談で、未来の世界の形を予想する

その後はFL1NE氏、我無氏、やはぎ氏、小池氏がステージ上に並び、「新たな人類のありかた」についてパネルトーク。それぞれ、自分が専門としているジャンルで技術が進化し、社会に浸透していくことを願っているとの意見。最後に白井氏がまとめたのは、Unityをはじめとするリアルタイムグラフィックス産業が強い北欧スウェーデンのゲーム特化型大学院大学の教授から聞いたという「カーリング的教育」のこと。欧州の教育シーンで一般化しつつある考え方で、「親や先生はカーリングの選手と同じ、子供はストーンと同じ」。選手は決して直接石には触らずに、進むべき環境をブラシで磨くことだけだという。さらに、ストーン同士、若い世代どうしが衝突して、戦略をもってぶつかってくれるのはむしろいいことだという。

最後に、デジタルハリウッド大学の杉山知之学長が登壇し、白井氏と対談。杉山氏は「現実世界ではさまざまな制限があるが、VTuberは制限を取り払いやすい。そのため、自分の興味や嬉しいことが純粋にわかるのではないか」と述べた。白井氏は「機械学習を使ってなりたい声優の声になれる研究を進めているし、リアルタイムで翻訳も可能。人工知能とコラボして自分の人格を作っていく時代になっていく」と締めくくった。

The Real Time Live ライブ配信映像