近未来フォーラム

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講演レポート

小林 啓倫

02.Tech

テクノ・エンパワーメントの時代

小林 啓倫

ITコンサルタント

マシンが人間の英知に追いつく未来を「テクノ・エンパワーメント」で

デジタルハリウッドにて11月28日(木)に開催された「近未来教育フォーラム2019」。今回は「In Real Time」がテーマとなっており、サブタイトルに「マシンの計算が人間の認知に追いついてしまう世界とは」と添えられている。

「Tech Track」の講演では、ITコンサルタントの小林啓倫氏が、テクノロジーと共存しながらこれからの時代を生き抜くための行動を示唆する。

マシンの計算が人間の認知に追いついてしまう世界とは?

「マシンの計算が人間の認知に追いついてしまう世界とは」を考えるために、小林氏は自身が訪れたシーテックのロボットを例にとった。1980年代に流行ったアーケードゲーム『ゼビウス』を、AIロボットが操作するというもの。機械学習でゲーム操作を覚えさせてプレイしているという。展示されていたものはミスをするように設計されており、失敗した時に悲しそうな表情をすることで、より人間らしさが加わる。

このようなAIと5Gを組み合わせることで、場所的な制約も取り払われる。

ここで小林氏は、メディア論で有名なマクルーハンの言葉を紹介した。

「テクノロジーは人間の体の拡張である」

その言葉は、次の3つを意味している。

1. テクノロジー=人間の身体の拡張
2. 身体の拡張によって感覚も変わる
3. 感覚の変化によって社会も変わる

「人間は自動車を手にしたことで、車の幅を『車幅感覚』として手に入れました。それだけでなく、人が歩くために適していた道路がハイウェイに変わり、車が通りやすいように人間の歩く場所を制限するようになっていきます。アメリカでは自動車を走りやすくするために、横断歩道以外で道路を横断する『ジェイウォーク』が禁止されるまでになった。人間のために生まれたはずの自動車によって、人間よりも『自動車のために最適な社会を』という考え方に変わってしまったのです」

AI+5G+IoTは社会をどう作り変えるのか?

AI+5G+IoTは社会をどう作り変えるのか?

マクルーハンの言葉を踏まえて、これから訪れるAI+5G+IoTの時代がどうなるのかを考えていく。小林氏は、次の3つの変化が訪れると予測する。

1. あらゆる情報が集められるようになる
2. 機械に判断をゆだねることが受け入れられるようになる
3. 課題設定の枠組み自体が変わる

これらは、すでに現実の世界に起こっていることだ。

ひとつめの「あらゆる情報」は、センサー技術やIoTの発展により収集するのが簡単になったデータ類のこと。小林氏が例に出したのは、飛行機のジェットエンジン。センサーを大量に設置して、5G通信でリアルタイムにデータを収集し、コンピューター上に再現して解析する。故障しそうな状況になったとき、地上にいる整備班がすぐにでも対応できるのだ。

データ収集の流れは、プライベート空間にも広がっている。日産が発表した自動運転のシステムでは、周囲の状況把握のためのセンサーに加えて、ドライバーの様子もセンシングしている。ドライバーが運転可能な状態化を確認するためのものだが、この流れは今後も進んでいくだろう。

ふたつめの「機械に判断をゆだねる」についても、徐々に進んでいく。カーナビの精度が低かった時代には渋滞情報をすべて信用する人はいなかったが、現在は無条件で信じるようになっているのではないだろうか。いずれ、医者の言うことよりもAIを信じるという時代が訪れることも考えられるのだ。

みっつめの「課題設定の枠組みが変わる」については、南アフリカの銀行で採用されているチャットボットTymeCoachの事例を紹介した。チャットボットが人が担当していた窓口の代わりをするだけでなく、金融リテラシーを付けるコーチの役割を担っている。TymeCoachを使ってそれぞれの顧客に適切なアドバイスをすることで、将来の顧客になってもらう狙いだ。加えて、「金融リテラシーを上げる」という国レベルの課題設定となっている。AIによって既存の業務を代替するだけでなく、人ではできなかった新たなモデルが構築されている好例だ。

人間はハッピーになるのか。Techno-Empowerment

紹介した事例を踏まえて、小林氏は次のような言葉をスライドに映し出した。

empower somebody (to do something)
誰かに対し、自分の人生や、置かれている環境をコントロールする力を与えること

Techno-Empowerment
テクノロジーに従属するのではなく、それを駆使して、自分の人生や置かれている環境をコントロールし、自分自身にとってより良いものへと変えてゆくこと。

これからの未来は、「1. あらゆる情報が集められるようになる」ことの結果として、個人による「主権回復」と「データリテラシー」が進むと小林氏は言う。

「さまざまな会社が持つ個人の情報を自分で管理できるような仕組みが、エストニアの『Internet X-ROAD』では実現されつつあります。『データの主権を個人に戻そう』という設計思想のもとに構築されているシステムで、自らのあらゆる情報のうち、省庁に参照された情報が特定でき、不利益をこうむったら判断のもとになったデータをもとに異議を申し立てることもできます」

加えて、「2. 機械に判断をゆだねることが受け入れられるようになる」ことで、医療のセカンドオピニオンが進み、サービスを選ぶためのAIリテラシーが必要になる。さらには、「3. 課題設定の枠組み自体が変わる」ために「いま設定されている課題は、新しい技術によってどう変化するか/変化させられるか?」という考え方が大切になっていく。

小林氏は最後にマクルーハンの言葉を引用しながら「我々は、未来を見ているつもりで過去を見ている。でも実は全く新しい方法から考えなくてはならない。今と同じ視点で考えないことが大切」と締めくくった。