近未来フォーラム

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講演レポート

研究紀要

03.研究紀要

研究紀要「DHU Journal」
論文・研究ノート発表会

デジタルハリウッド大学
メディアサイエンス研究所

研究紀要「DHU Journal」から多様なジャンルの研究を5つ紹介した論文・研究ノート発表会

デジタルハリウッド大学で2010年より毎年開催されている近未来教育フォーラム。2019年は、11月28日(木)に「In Real Time」をテーマとして開催され、マシンの計算が人間の認知に追いついてしまう世界を見据えて、さまざまな講演や発表が行われた。

「研究紀要『DHU Journal』論文・研究ノート発表会」は、デジタルハリウッド大学およびデジタルハリウッド大学大学院で発表された論文や研究ノートの発表会だ。研究紀要『DHU Journal』が発行されて6年目となる。デジタルハリウッド大学および大学院の教授であり、編集幹事である木原民雄氏は、査読の仕組みをアップデートし、質の向上に努めたことを紹介した。

F2LOモデルにより、内発的動機付けを促進するワークショップを研究

最初に研究ノートの発表をしたのは、デジタルハリウッド大学非常勤講師の古新舜氏。タイトルは「児童を対象としたワークショップにおけるF2LOモデルの組み合ってと内発的動機付けの考察」。古新氏は、ワークショップの最大の意義を「当事者意識が非常に高まる」と説明した。自分ごとになることが内発的動機につながるのだ。

自身のワークショップを分析するために「F2LO」モデルを取り入れた。F(ファシリテーター)、L(最低2名の学習者)、O(対象)を定義し、図で表すことができる。そのモデルを使い「位置づく/見立てる/味わう」の3つの視点で評価していく。ワークショップ後に検証したところ、「感じる力」「想像する力」「仲良くなる力」「自分を見つける力」の4つに優位差が生まれたとしている。

まだ確立されていないシーンベースのVR音響を用いた標準的音楽制作フロー

2つ目の研究ノートは、デジタルハリウッド大学助教の坂本昭人氏による「シーンベースのVR音響のための標準的音楽制作ワークフローの提案と構築」。360度動画は珍しくなくなったが、インタラクティブ性のあるものは、視点に合わせて画像が動く。ところが、そのほとんどで、音はインタラクティブに動かない。VR環境で視点に対して連動するような音を制作するワークフローが確立されていないため、標準的なものを定義するのが狙いだ。

坂本氏は標準化のために「従来の音楽性再作ワークフローを活用」「無償または安価なツールに限定」「2Mix用プラグインの活用」という3つの制限を設けた。会場では制作のフローを見せた後、スピーカーでデモをして聴かせた。画面の操作に応じて、左右や上下、奥行きによって音が変わるのがわかるのだ。今後は、プラットフォームに応じた研究が必要になるだろうと締めくくった。

グローバルMOOCSをデジタルハリウッド大学にも

論文の発表1本目となるのは、デジタルハリウッド大学学務グループの山口豪氏。「グローバルMOOC配信のコスト・ベネフィットに関する考察」の研究について発表した。MOOCとは、Massive Open Online Courseの略で、大学レベルの科目をオンラインで誰でも自由に受講できる仕組みのこと。各大学がグローバルにMOOCを配信することを「グローバルMOOC」と呼ぶことにする。

山口氏は、グローバルMOOC配信のコスト・ベネフィットを「金銭外のベネフィット」「金銭面のベネフィット」「金銭外の課題」「金銭面のコスト」と4象限に分けて整理した。そのうえで、「4つの視点で見ることで、グローバルMOOCから高等教育の将来像が得られるのではないか」と山口氏は期待する。グローバルMOOCの高等教育市場への影響力を示し、株式会社立であるデジタルハリウッド大学の教育研究活動と非常に親和性が高いとした。

子どもの頃の疑問を光吉演算として「アインシュタイン界」に挑む

ランニング姿で登場したのは、東京大学道徳感情数理工学講座の特任准教授の光吉俊二氏。英語による論文は「Some Hypothesis to derive an anti-Einstein field」、日本語では「反アインシュタイン界の仮説」と訳される。

アインシュタインの重力方程式では、重力は「質量/重心からの距離」で表される。ところが、「重心からの距離」が0の場合にはどうなるのか、というのが大きなテーマ。この「ゼロ除算」はこれまで「解なし」あるいは「無限大=∞」とされていたが、「無限の重力エネルギーが存在したら、エネルギー保存則が破壊してしまう」という反論がスタートだ。

リーマン球の概念を用いて、その逆を「逆リーマン球」と定義。さらに「反リーマン界」、「裏リーマン球」を定義する。小学生の頃に感じた算数の疑問を解決する光吉演算子を定義し、「行為」と「状態」を数式で表せるとした。「ゼロ除算」を光吉演算子で表し、裏リーマン球を光吉演算子で表すと、最終的に「リーマン球北極と逆リーマン球反北極を演算子の関数で接続すると、0≡∞となり1(エブリシング)を創発する」と結論付けた。創発とは、何もないところから何かが生まれることを指す。

「質問カード」で論理思考を実践的に使えるようにする

最後の発表となるのは、デジタルハリウッド大学教授の渡辺パコ氏による「実社会における論理思考の構造と思考能力向上の方法の研究」。論理思考を強化し実践で活用するために、「質問カード」という方法論を開発した。いくつかの企業で試験的に使ってもらったところ「論理的な思考に親しんでいない人でも一定の水準のアウトプットができるようになる」という評価が得られた。

また、渡辺氏は「この結果が論文に値するのか」という疑問を最後に呈した。「『多くの人は質問が苦手』というのは実感しているが、エビデンスがあるわけではない。伝統的な哲学はエビデンスがない。近頃は、根拠が数値に偏り過ぎているのではないか」と、引き続き考えたいテーマとして紹介した。

最後に杉山知之学長より挨拶があり、本学の教育研究活動等の活性化及び『DHU JOURNAL』の質的向上に大きく貢献した者を表彰する「『DHU JOURNAL』奨励賞」の発表があった。渡辺パコ氏が受賞し、「デジタルハリウッドは解放区なので、もっといろいろな研究があるといい」とこれからの展望を述べた。

▼ DHU JOURNAL 電子版はこちらから
http://msl.dhw.ac.jp/journal/