Press Release

デジタルハリウッド大学[DHU]<開催レポート>アニメ『PLUTO』の制作者が語る『日本アニメにおけるクリエイティブとビジネス』

文部科学省認可の株式会社立の大学として、デジタルコンテンツと企画・コミュニケーションを学ぶデジタルコミュニケーション学部(4 年制大学) と、理論と実務を架橋し新たなビジネスを生み出すデジタルコンテンツ研究科( 専門職大学院) を設置するデジタルハリウッド大学( DHU、所在地 東京・御茶ノ水、学長 杉山知之) では、2023 年度前期開講科目「アニメプロデュース」(担当教員: 渡辺哲也) にて、スタジオM2 代表・丸山 正雄さん、ジェンコ代表・真木 太郎さんをゲストにお呼びして、学内限定で特別授業を行いました。今回、特別授業の内容をレポートとしてまとめ、公開いたします。

< 開催レポート>
【Netflix オリジナルアニメ『PLUTO』の企画段階の話】

2023 年2 月にNetflix は、原案・手塚 治虫先生、作画・浦沢 直樹先生のマンガ『PLUTO』のオリジナルアニメを制作し、同年に公開することを発表しました。『PLUTO』は、『鉄腕アトム』の人気エピソード「地上最大のロボット」を原作とし、2003 年から2009 年まで連載されていたマンガです。主人公はアトムではなく、原作で脇役として登場したドイツの刑事ロボット・ゲ
ジヒト。彼の視点から物語が展開されます。これまで一度も映像化されたことがない『PLUTO』。今回のアニメ化は約10 年前、丸山先生のもとに話がきたのが始まりでした。

「アニメにするということは、原作と同じ内容をなぞるのではなく、原作の面白さをそのままに、だけど何か違う工夫をしなければなりません。『PLUTO』は一作品としてパーフェクトなマンガ。重厚な全8 巻分の物語を映像化することは困難だと思い、プロデューサーという役目を素直に引き受けることができませんでした」
丸山先生は当初、『PLUTO』のアニメ化に対して消極的だったと言います。
「ですが『PLUTO』をアニメにしたい、多くの方に見てほしいという気持ちがあったのも事実です。ロボットと人間の共生や、侵略戦争がテーマである本作は、現代人の心に必ず響く。またわたしは、手塚先生が率いた虫プロダクションで働いた経験があり、『鉄腕アトム』や『火の鳥』など数々の手塚作品に携わってきました。さらに『PLUTO』の作者である浦沢先生の『YAWARA!』や『MASTER キートン』のアニメにもプロデューサーとして関わっている。何か運命のようなものを感じ、『PLUTO』のアニメ化プロジェクトをスタートさせました」

■Netflix や原作者などに、どんなプレゼンをしたのか
『この世界の片隅に』などでもタッグを組んだ、丸山先生と真木先生がエグゼクティブプロデューサーとなり、制作が始まったアニメ『PLUTO』。主に資金調達や営業活動などを担当した真木先生からは、企画段階のお話を聞くことができました。

「集まる資金の額によって、豪華な映像になるかチープなものになるかが変わってきます。ただし、たくさんお金をかけたアニメであれば大勢が見てくれるわけではありませんし、低品質なアニメだとほかの作品に埋もれてしまう可能性もある。どのくらいのクオリティと予算であれば、資金を回収できそうか企画段階で見極めなければなりません。そのため試作段階において以下のようなパイロット映像を作り、Netflix さんと相談してアニメ『PLUTO』のクオリティの認識を合わせました。もちろん原作者である浦沢先生や、マンガ『PLUTO』のプロデューサーである長崎 尚志さんにもお見せし、納得のいく作品にすることをお約束しました」

主に、作品の質を担保するため現場を統括した丸山先生は「パイロット映像には、『PLUTO』独自の世界観、アクション、キャラクターなどを感じ取ってもらうために、見せなければならない要素を全部詰め込んだ」と言います。

■魅力ある欠陥商品を作る
本講義では『PLUTO』のほかに、「ヒット作品の生み出し方」についても話が及びました。
真木先生は「僕のWikipedia のページなどに掲載されている作品は、ヒットしたものばかり記載されていますが、ほかに失敗してしまったアニメがたくさんあります。個人的にはアニメ制作に長く関わり続け、数多くの作品を制作することが、ヒット作品を生む最大の要因だと思っています」と、継続することの大切さを強調しました。
また丸山先生も、ヒット作品の生み出し方について続けます。「お客さんにアニメを見てもらう以上、なるべく完成品を目指さなくてはなりません。しかし予算、スケジュール、人など数々の条件の中で、誰もが完璧だと思える作品が完成するケースは極めて少ない。もちろん仕事である以上、完成品を作る努力はしますが、欠陥商品が生まれるのは仕方ないと思っています」

多くの人は作品の質を上げるために、ダメだと思うポイントに目が行ってしまうかもしれない。しかし注目すべきポイントは別にあると、丸山先生は話します。
「僕が最近言っているのは『魅力ある欠陥商品を作りましょう』ということです。作品において重要なのは、どこに欠陥があるかではなく、どこに魅力があるか。作品としての売りはどこなのか、監督としてどんな工夫を施したのか、そこに注目すべきです」と、作品づくりにおいて、何を目指すべきかを教えていただきました。

■Q&A コーナー
講義も終盤に差しかかり、丸山先生や真木先生に質問できる時間が設けられました。

Q. 今までたくさんのアニメーション監督やアニメーターを発掘してきたと思いますが、その人たちのどこを見ていますか?
丸山先生: アニメを作るうえで「魅力ある欠陥商品を作りましょう」と言っているように、人の嫌なところではなく、魅力的な部分に注目するようにしています。アニメは必ず複数名で作業をするため、自分と合わない人が多少はいるかもしれません。ですが、仮にマイナスなポイントがあったとしても、「この人と協業することでどれほど面白いものができるのか」僕はそこに興味をもちます。

Q. プロデューサーという立場から見て、絵コンテとビデオコンテはどんな違いがありますか?
丸山先生: 個人的にビデオコンテというのは、すでに完成されたものに見えてしまう。映像としてイメージが定まるから、企画段階で良い作品かどうか判断が難しいんです。絵コンテや字コンテであれば未完成の要素が多く、想像が膨らみやすいと感じています。
真木先生: 今は映像の時代なので、分かりやすさを重視するために企画段階でビデオコンテを提出される監督が多くいます。ただ分かりやすい反面、ここからどれだけ面白くなるのかが想像できないことも。丸山さんの場合は、ビデオコンテだと余白がなくなったように感じるため、絵やテキストを紙として見ながら、監督とディスカッションした方が盛り上がりやすいのだと思います。
丸山先生: コンテの読み方は人それぞれなので、正解はありません。その企画書を評価する人や作品によって、表現方法を変えてみてください。

Q. 日本のアニメは原作モノが多いですが、完全オリジナル作品をもっと増やしたいという業界としての空気はありますか?
丸山先生: アニメというのは、出資者と作り手が「売れる作品になるだろう」と見込んで、双方が納得したうえで制作をスタートさせることができます。そのため、制作費の回収確率が高そうな小説やマンガなどを原作とし、アニメ化するのは自然な流れです。また、日本の場合はマンガのパワーが絶大でファンが多く、オリジナル作品よりもマンガ原作アニメのニーズが大きい。需要と供給が一致している状況なのだと思います。
しかし近年、原作の力に頼りすぎているアニメが増えていると感じています。監督のオリジナリティーを加えず、原作に忠実すぎるような気がしていて。視聴者側も原作通りにアニメ化してほしいという人が多いんです。
真木先生: 原作通りにアニメ化したら、ファンに怒られないんですよね。原作から外れるとクレームが届いてしまう。クリエイター、製作委員会、出版社なども、アニメ化するうえでなるべく摩擦が起きないようにしようという空気があります。
オリジナルの作品をゼロから作るのは難しいし、原作モノであっても自由にアニメ化することは難しい。クリエイターとして自由にできる環境が、もう少しあってもいいのかなと思っています。

Q. 丸山先生は中国の方と組んでアニメを作ることはありますか? また、先生から見て中国のクリエイターはどんな印象ですか?
丸山先生: 今日紹介した『PLUTO』は中国のアニメ会社と協力して制作しています。僕は中国アニメのファンですし、中国に行ったら必ず会うクリエイターがいます。僕はただ面白い人と一緒に仕事がしたいだけなので、中国とか、韓国とか、日本とか国籍を気にしたことはありません。皆さん優秀な人たちばかりなので、いつかは各国のスタッフを集めて、1 本の作品を作りたいという夢があります。
丸山先生が考えるクリエイターの発掘方法や、アニメ業界に漂っている空気、海外とのつながりなど、学生からさまざまな質問が寄せられ特別講義は終了しました。